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広島空港に隣接した「三景園」を見る-1

2019.01.22

■プロローグ
思いがけない所で本格的日本庭園に出会った。それは広島空港に隣接する中央森林公園にある「三景園」。空港開港を記念して1993年に作られた約6.0haの池泉廻遊式庭園で、名匠伊藤邦衛(1924~2016年)の熟練の技が展開する素晴らしい庭園である。

伊藤は広島の出身、地元での大庭園の作庭は燃えに燃えたであろうし、その結果は見事な日本庭園を私達にもたらした。

計画地は中国山地の南面に位置し、豊かな森林を背景に、起伏に富んだ地形を活用して伊藤は多様性あふれる庭園を作った。この庭園は大きく3つのゾーンで作られている。自然林を生かした「山のゾーン」、竹林・梅林に溜池を配した「里のゾーン」、瀬戸内海を模した大海に中島と橋・厳島神社を連想させる建物、潮見亭がある「海のゾーン」、この配置で飽きの来ない多様な景観を構成している。この広島の山・里・海、3つの風景をモチーフとして作った庭園は「三景園」という美しい名前を付けられて誕生した。

■垂直のシークエンスで入口へ
さて正門から訪れることにしよう。道路に接した入口の構えは何気ない表情だが、そこから下る山路は伊藤らしい丁寧な石組がもてなし、階段や石組のディテールのバリエーションも面白い。しばらく下ると下方に突然水に囲まれた建物が出現。まるで空港に降り立つ飛行機の機内から下界を見るようで、その上、本庭園の前に水面を意識させたデザインが出迎えてくれる。このイントロから大胆に始まる庭園の物語には驚きと楽しみが期待できそうだと胸がふくらんだ。

橋を渡って正面から中に入ると、思わず声が出てしまう程の大きな広がりが目の前に展開。このダイナミックで開放的な空間のインパクトを受けて、しばらく呆然と見とれてしまった。こんな山の中にこれだけ奥行きのある庭園を作れるなんて…。庭園の入口で早速クライマックスを見せてしまう伊藤の外連味のあるサービス精神に拍手を送りたい。

見渡せば建物と回廊は誰が見ても厳島神社の本歌取りだとすぐに分かる。大池に中心軸を深く設け、回廊でそれを補強しており、燈籠はセンターから少しずらして設置している。燈籠にアイストップの役割を持たせ、奧の山畔にある層塔と樹林地へ視線を誘導し、奥行きを演出しているのがよく分かる。

私は海辺のまちに育ったせいか、海と水とは触れる程の間合いが好みで、厳島神社の回廊はほっとする懐かしい空間であった。日本庭園は古来から水との接点を大事に扱い、近い距離で人と接するかたちを多く用いたが、韓国や中国の庭園は少し違うようだ。韓国慶州の王宮半月城にある雁鴨池は高さ5mを越える石垣の護岸があるし、中国の庭園も園路より水面への距離がある。日本人のメンタリティーなのか日本庭園では地面と水面の高低差はなるべく少なくし、座敷を舟と見立て、自然の川や池を眺めた日本庭園の例もある。そのせいか、この回廊に立つと何か自分が原点回帰した様に晴れ晴れとし、元気をもらって健やかな気分になっていた。

しかしなぜ山地の中に海の風景なのだろうとしばらくの間考え込んでしまった。大池を眺めているうちにひらめいた。「そうだ、この水面は海ではなく空なのか」と。じっくり見ればこの大池には「空も雲も写るし、山並みも見える」ではないかと。まさに空港に隣接する庭園に相応しいコンセプトがそこにあったと、少々強引なロジックを胸に秘めて廻遊をスタートした。

■単調だが美しく幸せな園路
大海に延びた回廊を進んで行くと自然に左手に曲がり、階段を上ると廻遊路が始まる。ここでは伊藤が右廻りの廻遊ルートをプログラムしており、物語の意図は明快だ。水面より少し高く作られた園路から、庭園の主景である中島や橋と背後の樹林地を観賞しながら歩を進める。このリズム感がとても気持ちが良いがなぜなのだろうか。私は園路の背後が樹林で守られており、その上主要景観を順光で見られるからではないかと考えた。さらに視線が少し下方に向き、無理のないパノラマ景観を楽しめるからと解釈した。

そういえばイギリスの地理学者アップルトンが「人間が心地良く感じる空間は背後を守られながら眺望のきく場所」と述べている事を思い出した。人間も動物の一員であるから防御と攻撃の感覚はいまだに身についているのかもしれない。この言葉はランドスケープの基本的なデザインスタンスの多くの部分を語っているのではと、私は以前から考えていた。

この先に進むと大池に面した明るい園路から樹林に囲まれた暗いエリアに進んで行く。この明暗の繰り返しが庭園に変化とリズムを与えてくれ、庭園への楽しみが増加する。

■園路は山の中へと進む
園路は高度を少しずつ上げて行き(まるで飛行機)、俯瞰気味の見通しの良い景観が連続する中を進む。中でも中島に架けたふたつのアーチ木橋や護岸の豪快な石組は伊藤の面目躍如たるもので、ぴたりと景観におさまっている。さらに、富士山を見立てた笹の斜面も楽しく展開している。回廊からの東西軸の最深部「椿山」に至り、大池への俯瞰を体験。まるで海を覗き込む様な迫力で、近くの四阿「菱亭」の周りも山の風景が満載である。これは伊藤の原風景でもあろうと推察した。

この「菱亭」付近は私の故郷尾道の山中にもそっくりで、大岩に囲まれた複雑な石段や園路は遠い昔を思い出させてくれた。主要な園路の舗装は滑らかで歩きやすく、それから外れた山や谷に向かう路は石階段や土留め石組を厳しい表情で造型している。それらの対比した空間が私達に様々な体験や行動を促し、伊藤の描く物語にどんどん入り込んでしまう。これもまた幸せな空間と時間だ。

■里のゾーンから山のゾーンへ
樹林に囲まれた園路を抜けると明るい「里のゾーン」に到着する。山の中腹のような台地に、里池と芝生広場で構成されており、あまり作り込まれてなくてほっとする空間である。一般に作者の意図が強い空間は情報量が多くなりすぎ、その処理で頭が一杯となり、余裕のない見方になってしまう。ここの空間は里の持つほのぼのとした空気感が辺りを満たしており、交響曲であれば二楽章のアダージョのような風景となっている。

里池は四角と曲線を組み合わせたスタイルで、佇まいが韓国風の庭園に見える。それは韓国庭園の典型的な「方池円島」、つまり四角の池に円形の中島を入れる様式を彷彿とさせるからだ。中島のアカマツ群植もソウルの秘苑とそっくりで、伊藤は意図的に取り入れたのか、それとも自分自身の世界なのであろうか、考えてしまう手法である。池辺に佇むシダレザクラは開花時にもう一度来たいものだと思う程見事な風情を感じた。

一方、芝生広場は大池をはじめとする建物群が眼下に一望。中島や木橋が大池に映えて美しく、見飽きることのない景観でしばらく時を過ごした。この周囲には梅林や紅葉谷があり季節に応じた楽しみを提供している。「里のゾーン」は他のゾーンと比較して、デザイン密度を薄くしており、やわらかい雰囲気が満ち、廻遊式庭園を日本料理となぞらえ、コース料理の「箸休め」的な存在だと言っても良いかもしれない。

戸田 芳樹

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