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柴又山本亭庭園を訪ねる

2020.11.28

外国人に人気の山本亭庭園を訪れた。アメリカ人による日本庭園の人気アンケートでは、鳥取県米子市にある足立美術館庭園に次ぐ第2位の座をしばらく保っており、どんな庭園なのか一度は鑑賞したいと思っていた。この庭園は地元でカメラ部品メーカーを立ち上げた山本栄之助氏の自宅で大正12年(1923)の関東大震災後につくられ、4代にわたって使われていた。昭和63年(1988)に葛飾区が取得、平成3年(1991)から一般に公開されている。

■山本亭へのアプローチ
山本亭は有名な柴又帝釈天に隣接し、江戸川からも近い所に位置している。帝釈天の脇の道を真っ直ぐ進むと、料亭風の入口が正面に見えてくる。近くに寄ると京都のような佇まいが待っている。入口から玄関までは石畳、銀閣寺を本歌取りした石積、生垣があり、本歌の銀閣寺垣を少々小さいスケールにしてつくられている。何度も折れ曲がって進むスタイルも同じ、デザインのキメも細かくいやが上にも期待が高まってくる。生垣は銀閣寺のアラカシに対してシラカシを用い、関東の風土が感じられ抜かりはない。

■山本亭庭園は職人の技
受付から広間に入るといきなり日本庭園がパノラマに展開、これに出会った外国人達は「ワォー」と感嘆の声を上げたであろう。建築と庭園が接する廊下を長く取り、途中1ヶ所折れ曲がっている工夫も景観的だ。建物と庭園を一体化してつくりたいという「庭屋一如」の精神が伝わってくるようだ。訪れた人は思い思いに座ってくつろぎ、コーヒーやぜんざいを食しながら鑑賞していた。リラックスできる空間を具現化した設えはこの庭園1番の美点といえる。

さて、訪れたのは午後1時頃であったので、冬の太陽がよく入っている。しかし陽光は低く南向きの部屋なので庭園に対しては逆光となり、肝心の庭園がよく見えない。一般の住宅でも日当たりの良い南面のスペースを庭園にするケースがほとんどなので、住宅から見ると逆光となり、樹木も育ちが悪い北の姿を鑑賞することになってしまう。むしろ道側からの美景を通りすがりの人に見せており、皮肉にも都市的な視点からは美しいまちなみの創出となる。

庭園をよく見るには、薄曇りの日か太陽の高い季節にくるしかないであろう。庭園様式は池泉庭園で護岸石組や橋を設え、奥の方に大きな石を置いたのが景のポイントのようだ。手前の井筒から水を落とす人工的なデザインは建物脇の風情にぴったり合っている。庭園の石の扱いはいかにもひと時代前の職人の手法が見て取れる。美しく大きな石をどんと置いて「これでどうだ」という感覚。庭園の物語による構成、軸組による遠近法、石組の意味が語りかけて来ないので石造物に頼ることになる。さらに樹木の管理方法が不徹底なので、庭園の景観全体の美しさが表現されていない。手入れの技術に問題がありそうなのは行政の管理なので入札などで業者を決めるからだろうか?美しい樹形を望むなら最低3年間は同じ業者でやるべきではないだろうか。

■庭園と過ごす幸せ
 多くの人で賑わっていたのは外国人だけの人気ではなく、日本人もこの様な空間で時間を過ごすのが好きだからだ。庭園と建物が長辺で接する「庭と共に暮らす」スタイルは昭和時代の具現化となり、私達をノスタルジーの世界に誘ってくれる。太陽がさんさんと差し込む畳の上で「ぜんざい」を食す喜びは日本人だけのものではなかった。この日は広間でギターの特別演奏会があった。スペインの曲が純日本家屋と庭園に響いた午後の日差しは幸せそのものの時間と空間であった。

戸田 芳樹

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