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飛鳥山公園周辺を歩く

公園・緑地

2024/8/30

飛鳥山公園周辺を歩く

飛鳥山は江戸時代、八代将軍吉宗によって桜の花見の場として開放され、今も市民の憩いの場となっている。熱い日差しをものともせず、現状を探りにこの地を訪ねてみた。

ここは江戸最北の台地にあり、風水の「四神相応」から見れば「北の玄武」に当たるロケーションとなる。その一角に1万円札で話題の渋沢栄一の資料館もあり、多くの人出で賑わっていた。

今回、注目したのは公園の西方にある「音無親水公園」と「名主の滝公園」のふたつの公園である。

■音無親水公園

まず、ひとつ目の音無親水公園は昭和63年、石神井川の迂回により出来た川床を再利用した公園で、作庭家でランドスケープアーキテクトの伊藤邦衛によってつくられた。公園は地上より下った位置にありながら狭苦しくなく、日本庭園の手法を使って子供たちの「遊びの場」、大人の「憩いの場」を、とてもチャーミングな空間として仕立てている。

伊藤は日本庭園のデザインボキャブラリーを用いながら、現代に通用するモダンなデザインを展開する名人であった。伊藤が活躍した1960年から2000年までは、日本が経済的に復興していく上り調子の時代で、活動の場は「個人の空間」から「公の空間」に、技術的には植栽担当からランドスケープアーキテクトへと育っていく過程の時代であった。

当時は欧米に留学する人はほとんどなく、ランドスケープアーキテクトの作品は日本の伝統文化、つまり日本庭園の延長線上にランドスケープデザインを位置付けて独自の世界を表現した。その意味から、これらの公園はモダンランドスケープが日本にもたらされる前の作品であった。だから、私たちはこの時代の作品を読み解き、社会との関係性を問わなければ次の時代に進めなかったはずである。しかし、それが成された形跡が見当たらないことは、現代のランドスケープデザインにとって不幸なことといえる。

ここでは公園の持つ「機能」をベースにして、日本庭園がつくり上げてきた「用と美」のバランスをコントロールして、空間をつくりあげた伊藤のテクニックをじっくりと見たい。今日は公園に「機能」はあっても「美」を求められていない不幸な時代であるらしい。

■名主の滝公園

音無親水公園よりもう少し西へ行くと、板橋区立「名主の滝公園」がある。ここは公園と称しているが、誰が見ても日本庭園である。しかし、庭園の歴史や構成、庭園美を判断するのが難しく、公園の名称にしたのではないかと推測した。

公園は道路から少し引いた所にある門構えからして風格がただよう。一歩足を踏み入れればここは大庭園である予感がしてくる。大庭園とは瀧や流れ、施設などを園路で廻遊して楽しむ、大名庭園のようなメニューを持つ庭園を私の感覚で述べた言葉。庭園は江戸時代末期につくられ明治時代に改修、樹木は大きくなり庭園の全望が掴みにくくなっている。

園路を進んで行くと、「水の表情」をテーマにした庭園だということが分かってくる。ダイナミックな瀧や流れなど、美しい施設が次から次へと現れる。特に高低差が8mもある「男瀧」はあたりに響く音を立てて落水。今は水が出ていない「女瀧」や「湧玉の瀧」も修理して水を出せば素晴らしい景観になるはずだ。鑑賞者を大いに喜ばせるこれだけの庭園がよく残ってくれたと感謝の気持ちがいっぱいになる。

しかし、管理者の立場から見ると、えらいものを背負い込んだような気分になるだろう。斜面の樹木はいつ倒れるか心配、瀧の石組みは壊れないか、雨で土が流された舗装は歩きにくく、全体が暗く園路も狭く危険だ。どこをどう歩くと庭園の美しさを満喫できるのか、それを示す整備もできていない。

文化財的な観点であれば歴史の古い庭園が評価されるのは当然だが、明治時代以降にも素晴らしい庭園は目白押しにある。それが理解されていないのは、しっかりとした調査が不足しているということで、とても残念である。この「名主の滝公園」は板橋区の所有だが、全国的レベルの価値がある。まず庭園ファンが押しかけ、「3つの瀧と流れの美しい庭園」と宣伝、区が誇りをもって区民に紹介し、庭園の魅力を伝えていきたいものである。

戸田 芳樹

音無親水公園の流れ

音無親水公園の流れ

音無親水公園の瀧は日本庭園のスタイル

音無親水公園の瀧は日本庭園のスタイル

家族で公園を楽しむ風景は美しい(音無親水公園)

家族で公園を楽しむ風景は美しい(音無親水公園)

名主の滝公園の入口門

名主の滝公園の入口門

雄壮な男瀧を見る(名主の滝公園)

雄壮な男瀧を見る(名主の滝公園)

流末には大きな池で庭園らしさを表現(名主の滝公園)

流末には大きな池で庭園らしさを表現(名主の滝公園)

戸田芳樹風景計画

株式会社

戸田芳樹風景計画

地球環境時代と称される今日、ランドスケープアーキテクトは社会に対して何を発信するべきか、問われております。
当社は生物を扱う科学をベースに、美しい風景と人間の豊かな生活を実現すべく、国内外のプロジェクトを精力的に行い、実績を残しております。