日本庭園
2026/4/8
琵琶湖の居初氏庭園を見学する-1
金沢の作庭家:丸岡喜市氏が毎年主催する「樹仙堂庭園見学会」に昨年も参加した。この見学会の魅力は一般公開されていない庭園や、交通が不便で行きにくい庭園を手軽に見られることである。さらに、昼食は地元の有名料理で舌鼓、まさに眼の楽しみ、舌の喜びを満載した企画なのだ。
今回は琵琶湖のほとり大津市野田町の「居初氏庭園」が見学のひとつである。景色の良い所に住まいたくなる気持ちは平安時代の貴族から今日に至るまで同じことは間違い無い。
政治や経済で財をなした人は人生後半にそのエネルギーを文化に向けたが、この庭園もその気配が濃密に立ち現れた空間であった。
■庭園構成のキーワード
私は今まで、居初氏庭園は鄙びた所にあると勝手に思っていたが、町屋の中に存在しているのに驚いた【写-1】。庭園に入るには建物の暗い所を一旦通り、明るい外部に導かれる。ここで仕掛けたアプローチの明暗が、庭園デザインを読み説くヒントになったようだ【写-2】。
日本の美意識を表現した「あ・うん」というキーワードが良く知られている。これは神社に置かれた狛犬の例が分かりやすく、一方が口を開いた「あ」、もうひとつは口を閉じた「うん」の対で構成。二者を対比した手法は様々なデザインプロセスに応用されてきた。
ここでは、建物内の「暗」に対して庭園の「明」がキーコンセプトとなり、園路(延段)、石組、手水鉢にさりげなくこの「対比」をきめ細かくデザインしているのが分かる。
■「延段」にこめられた意味
さて、建物の狭い通路から庭園に出ると、そこは生垣に囲まれた格式の高い空間で、飛石の先に「第1の延段」が見える。その先方に中門が見え、本庭がその先まで続いていることがうかがえる。敷石は左右の縁に縦長の石を用いて方向性を演出、琵琶湖に向かう軸を意識していることもよく分かる。石張りのパターンは明確で凸凹も少なく、「真の延段」の風情が漂う【写-3】。
ユニークなのは、中門の手前で「延段」が一旦終わり、その先を飛石で先に進むことだ。「延段」の直線とランダムな飛石の対比が「あ・うん」として捉えられる。これは近代以降のモダンなデザインにも通底している手法のひとつである。
中門を越えると「第2の延段」が一直線に琵琶湖に向かう。この「延段」は中門の前にある「第1の延段」の軸に合わせており、本庭の主軸であることを示している。この「延段」右手の長石は琵琶湖方向に意識を強く向けて欲しいから用いているのであろう【写-4】。
■「延段」の交差でデザイン意図を表す
第1、第2の「延段」のデザインは基本的に同じだが、第2の石の扱いは少しラフで、「行」の表現と見て取れる。途中、琵琶湖に平行した「第3の延段」と交差し、その先も軸をずらして敷石は琵琶湖に進む。
この庭園の見所は「第2の延段」と直交する「第3の延段」の存在である。この「延段」は座敷から見ると建物に平行、琵琶湖の岸に合わせたラインで構成していることが分かる。日本庭園の「延段」でここまで明快なデザインを主張するのは珍しい【写-5】。

【写-1】和風の佇まいの美しい街であった

【写-2】建物から庭園の進む狭い露地

【写-3】中門までの端正な「第1の延べ段」

【写-4】中門からの「第2の延べ段」は真っ直ぐ琵琶湖に延びる

【写-5】直線に進む「第3の延べ段」





